『彼女の彼』全3巻レビュー|松本美緒が描いた昭和の青春と「彼女の彼」

レビュー・感想

今回は、松本美緒先生の漫画『彼女の彼』全3巻を紹介します。

『彼女の彼』は、1980年代に「別冊フレンド」で掲載された学園ラブストーリー。

1987年に発売された作品で、昭和の終わりへ向かっていた時代の空気が作品の中に流れています。

私は今回、電子書籍でこの作品を読み返してみました。

若い頃に読んだ漫画を、大人になった今もう一度読み返してみると、当時とは違うところに心を動かされることがあります。

この作品も、まさにそんな漫画でした。

『彼女の彼』はどんな漫画?

物語の舞台は1985年春の広島。

主人公は中学3年生の芹香(せりか)。

両親の離婚によって張りつめていた芹香の心を緩めてくれたのが、危険な魅力を持つ少年・凌二(りょうじ)でした。

芹香は次第に凌二に惹かれていきます。

ところが、凌二には春美という「彼女」がいました。

しかも凌二と春美は、誰もが認めるほどのベスト・カップル。

普通なら、好きな男の子に彼女がいると知れば、嫉妬してしまいそうなところです。

ところが芹香は、二人を見て嫉妬するどころか、その二人の関係に心を打たれてしまいます。

そして芹香の心に残る言葉が、

「彼女の彼」

だったのではないでしょうか。


1巻|芹香が恋した「彼女の彼」

1巻では、芹香が凌二と出会い、惹かれていくまでが描かれます。

家庭の事情から心を張りつめていた芹香にとって、凌二は自分を解放してくれるような存在でした。

危険な雰囲気を持っているけれど、どこか優しさもある。

そんな凌二に芹香が惹かれていく気持ちは、読んでいる側にも伝わってきます。

しかし、凌二には春美がいる。

ここで面白いのが、芹香が春美に対して単純なライバル心を持たないことです。

むしろ、凌二と春美の二人を見て、

「この二人には敵わない」

というような気持ちを抱いてしまう。

嫉妬するのではなく、二人の関係そのものに心を動かされてしまうのです。

だからこそ、タイトルの『彼女の彼』という言葉が印象に残ります。

「私の好きな人」ではなく、

「彼女の彼」

なのです。

この微妙な距離感が、芹香の切ない恋心を表しているように感じました。


2巻|突然の悲劇と、残された二人

物語は2巻で大きく動きます。

3人の関係を突然襲う悲劇。

春美を失ったことで、芹香も凌二も大きな喪失感を抱えることになります。

そして、二人の間には少しずつ距離が生まれていきます。

好きな人を失った悲しみ。

残された者が抱える後悔。

そして、簡単には言葉にできない感情。

青春漫画というと、恋愛のドキドキや胸キュンを想像する人も多いと思います。

しかし『彼女の彼』は、単純な三角関係の恋愛漫画ではありません。

「人を好きになること」

「大切な人を失うこと」

「残された人間が、その後をどう生きるのか」

そんなところまで描かれている作品です。

芹香と凌二は、春美を失ったあと、どのような関係を選ぶのか。

ここはぜひ実際に読んで確かめてほしいところです。


3巻|『-拓也-YOKOHAMA 二十歳前』へ

3巻には、『彼女の彼』のその後を描いた作品、

『-拓也-YOKOHAMA 二十歳前』

が収録されています。

春美がいなくなったあとに残された凌二。

そして、喪失感を受け止めきれない井東。

今度は、この二人の男たちの青春が描かれます。

『彼女の彼』で描かれた物語を別の角度から見ることができる作品になっています。

そして後半には、読み切り完結作品『月下美人 MOONLIGHT HONEY』も収録されています。

そのため、3巻は『彼女の彼』だけを読んで終わるのではなく、その後の物語まで楽しめる構成になっています。


私が一番印象に残った「彼女の彼」という言葉

ここからは、私自身の感想です。

この漫画を読み返していて、特に気になったのがタイトルにもなっている、

「彼女の彼」

という言葉でした。

物語の最初に芹香がつぶやく「彼女の彼」。

そして、物語の最後に、ある少女が芹香と凌二の二人を見て感じる「彼女の彼」。

私は、この二つの「彼女の彼」がとても印象的でした。

最初の「彼女の彼」は、

「私が好きになった人だけれど、その人には彼女がいる」

という芹香自身の立場を表していたのだと思います。

ところが、物語の最後になると、その言葉が別の形で響いてきます。

ある少女が芹香と凌二の二人を見て、

「彼女の彼」

と感じる。

私は、この少女のつぶやきこそ、芹香が心の中で思い描いていたものだったのではないかと思いました。

最初は「彼女の彼」だった凌二。

それが物語を通して、二人の関係が変化していく。

だからこそ最後に出てくる「彼女の彼」という言葉が、最初とは違った意味を持って聞こえてくるのです。

ここは、私がこの作品を読み返して一番好きだったところです。


昭和の終わりを感じる青春漫画

『彼女の彼』を読み返していると、ストーリーだけではなく、1980年代という時代そのものも感じます。

1985年が舞台ということもあり、今の漫画とは当然ながら空気感が違います。

携帯電話もスマートフォンもない。

インターネットもない。

今のようにSNSで誰かと簡単につながれる時代でもありません。

だからこそ、人と人との距離感や、会うこと、話すこと、待つことなどが、今とは違った重みを持っています。

そして、当時は「ヤンキー」に憧れを持つ若者も多かった時代。

凌二のような危険な雰囲気を持った男の子に惹かれる、という設定にも、あの頃の時代の空気が感じられます。

今回、私は電子書籍でこの作品を読み返しました。

読んでいると、

「そうそう、あの頃ってこんな感じだった」

と、漫画そのものだけではなく、当時の時代まで思い出してしまいました。


今、大人になって読み返すからこそ分かること

若い頃に読んだ漫画を、大人になってから読み返すと、見えるものが変わります。

当時は、

「芹香がかわいそう」

「凌二ってかっこいい」

「こんな恋愛って切ないな」

という読み方をしていたかもしれません。

でも、今読み返してみると、それだけではありません。

春美の存在。

芹香の気持ち。

凌二の苦しみ。

そして、残された人たちが抱える喪失感。

それぞれの立場から物語を見ることができます。

特に春美という存在が、この作品ではとても大きい。

単純な「恋のライバル」ではなく、3人の関係そのものを成立させている人物だからです。

だからこそ、春美を失ったあとの物語が重く感じられるのだと思います。


『彼女の彼』は単なる三角関係の漫画ではない

最初は、

「女の子二人と男の子一人の三角関係かな?」

と思って読み始めるかもしれません。

でも、実際に読んでみると、それだけではありません。

恋愛だけではなく、

  • 家族
  • 青春
  • 喪失
  • 後悔
  • 人を好きになること
  • 残された人が生きていくこと

など、さまざまな感情が詰まっています。

そして何より、1980年代という時代だからこその空気があります。

現在の恋愛漫画とは違う、昭和の青春漫画ならではの切なさを感じる作品です。


こんな人におすすめ

『彼女の彼』は、こんな人におすすめしたい漫画です。

  • 80年代の少女漫画が好きな人
  • 別冊フレンドの昔の作品が好きな人
  • 昭和の青春漫画を読み返したい人
  • 三角関係だけでは終わらない恋愛漫画が好きな人
  • 切ない青春物語が好きな人
  • 昔読んだ漫画をもう一度読み返してみたい人
  • 80年代のヤンキー文化や青春の雰囲気が好きな人

特に、私のように1980年代の漫画をリアルタイムで読んでいた世代なら、ストーリーだけではなく、当時の空気まで一緒に楽しめると思います。


まとめ|「彼女の彼」というタイトルが心に残る

松本美緒先生の『彼女の彼』全3巻。

1980年代の「別冊フレンド」に掲載された作品ということもあり、今読むと懐かしさを感じる部分がたくさんあります。

けれど、単なる「昔の少女漫画」ではありません。

人を好きになる気持ち。

誰かを失う悲しみ。

残された人たちが抱える後悔。

そして、その先にあるそれぞれの人生。

そんなものが描かれています。

私が今回読み返して一番心に残ったのは、やはりタイトルの

「彼女の彼」

という言葉でした。

物語の最初に芹香がつぶやいた「彼女の彼」。

そして最後に、ある少女が芹香と凌二を見て感じた「彼女の彼」。

同じ言葉なのに、物語を読み終えたあとでは、まったく違う意味に聞こえます。

私は、この最後の「彼女の彼」という少女のつぶやきこそ、芹香が最初から心のどこかで思い描いていたものだったのではないかと感じました。

1980年代の青春を知っている人なら、きっと懐かしさを感じる作品。

そして、若い世代の人が読んでも「昔の恋愛漫画って、こんなに切なかったんだ」と感じられる作品だと思います。

昔読んだ人は、ぜひもう一度。

初めて読む人は、昭和の少女漫画の一作品として。

『彼女の彼』を読み返してみてはいかがでしょうか。





📖 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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