里中満智子さんの歴史漫画『長屋王残照記』。
今回読んだのは文庫版の1巻から3巻までです。
『天上の虹』で古代日本の歴史を描いてきた里中満智子さんですが、今回の『長屋王残照記』では、持統天皇の時代から続く皇族たちの血筋と、やがて長屋王を襲う悲劇が描かれています。
読み進めていくと、華やかな古代王朝の物語というよりも、
「皇族として生まれたことが、必ずしも幸せとは限らない」
ということを強く感じさせられる作品でした。
『長屋王残照記』とは?
物語の中心となるのは、持統天皇の甥にあたる長屋王です。
長屋王は、高市皇子の息子。
持統天皇にとって高市皇子は信頼する存在として描かれており、その息子である長屋王もまた、非常に高貴な血筋を持つ人物です。
しかし長屋王自身は、権力を求めて皇位を狙うような人物ではありません。
むしろ律儀で真面目な性格で、一臣下として生きようとしています。
ところが、本人が望んでいなくても、皇族としての血筋が政治の世界では大きな意味を持ってしまいます。
そして、その血筋こそが長屋王を政治的な争いへと巻き込んでいくことになります。
この作品の大きなテーマとなるのが、歴史上実際に起こった「長屋王の変」です。
1巻~3巻のあらすじ
1巻
持統天皇の甥である長屋王は、律儀で真面目な人物として描かれています。
自分から皇位を望むこともなく、一人の臣下として生きようとする長屋王。
しかし、皇族としての血筋を持つ彼は、本人の意思とは関係なく政治の世界で注目される存在になっていきます。
持統天皇の時代から続く皇族たちの関係、そして朝廷内の権力争い。
長屋王は、次第にその渦中へと巻き込まれていきます。
1巻を読んでいると、
「本人は何も望んでいないのに、血筋だけで政治の争いに巻き込まれてしまう」
という長屋王の立場がとても切なく感じられます。
2巻
元明女帝が即位し、平城京への遷都が行われます。
政権の実力者として存在感を強めていくのが藤原不比等です。
さらに、民に銭を広めるための蓄銭叙位法が成立するなど、政治や社会の仕組みも変化していきます。
そんな中、長屋王は藤原不比等に対して、密かな疑惑を抱くようになります。
そして興味深いのが、元明天皇もまた藤原不比等に対して同じような疑惑を持っていたというところ。
単純に「誰が味方で誰が敵なのか」が分からないところが、この作品の面白さでもあります。
政治の表側で語られていることと、その裏側にある思惑。
長屋王を取り巻く状況は、少しずつ不穏なものになっていきます。
3巻
氷高皇女が元正天皇として即位し、その後の首皇太子、後の聖武天皇の即位に向けた準備が進められていきます。
一方、長い間、長屋王に憧れ、その優美な姿を追い続けてきた房前にも変化が見え始めます。
これまでとは少しずつ人間関係が変化し、長屋王を取り巻く空気も変わっていきます。
そして読者にも、
「何か悪いことが起こるのではないか」
という予感が強くなってきます。
3巻では、まさに「悲劇の足音」が少しずつ近づいてくるような印象を受けました。
読んでいて一番怖かったのは「血筋」だった
今回1~3巻を読んでいて、私が特に怖いと思ったのが「血筋」というものです。
長屋王は高市皇子の息子。
そして高市皇子は、持統天皇が信頼していた人物として描かれています。
それだけを考えると、
「高市皇子の息子なら、持統天皇にとっても大切な存在なのでは?」
と思ってしまいます。
ところが、時代が変わり、天皇の後継者をめぐる状況が変化すると、その血筋が逆に政治的な脅威になってしまう。
ここが本当に怖かったです。
昨日まで大切にされていた血筋が、時代が変われば邪魔な存在として見られてしまう。
そう考えると、皇族として生まれることが必ずしも幸せではなかったのだと感じます。
「天皇にするには邪魔者は消せ」という世界が本当にあったのか
作品を読んでいて、私は何度も、
「昔の政治って、こんなに残酷だったの?」
と思いました。
もちろん漫画作品なので、登場人物の心情や会話などには作者による創作があります。
それでも、長屋王の変そのものは古代史上の実際の事件です。
だからこそ、単なるフィクションとして読み流せない怖さがあります。
現代の感覚からすると、
「皇位継承のために、そこまでしなければならないのか」
と思ってしまいます。
政治的な立場や皇族としての血筋が、そのまま命に関わるような時代。
今とはまったく違う価値観の中で生きていた人たちの苦しさを感じました。
持統天皇は本当にこれを望んでいたのだろうか?
そして今回、私が一番考えてしまったのが、
「持統天皇は本当に長屋王の悲劇を望んでいたのだろうか?」
ということです。
長屋王の父である高市皇子は、持統天皇から信頼されていた人物として描かれています。
その息子である長屋王が、後に政治的な争いの中で悲劇に巻き込まれていく。
そう考えると、
「持統天皇が生きていた時代には、長屋王はどんな存在だったのだろう?」
「もし持統天皇がその後の出来事を知ったら、どう思ったのだろう?」
と考えてしまいました。
ただし、ここは史実として断定できる部分と、作品を読んで感じたことを分けて考える必要があります。
持統天皇本人が後の長屋王の悲劇をどう考えていたのかについて、漫画の描写だけから事実として判断することはできません。
だからこそ、この作品を読んだ後に実際の歴史を調べてみたくなりました。
『長屋王残照記』は「歴史を知りたくなる漫画」
私自身、今回読むまで長屋王について詳しく知っていたわけではありませんでした。
「長屋王の変」という名前を知っていても、
誰が長屋王だったのか。
なぜ長屋王が政治的な争いに巻き込まれたのか。
なぜ悲劇が起きたのか。
そこまで詳しくは知りませんでした。
だからこそ、漫画として物語を追いながら、
「これって実際の歴史ではどうだったんだろう?」
と気になってきました。
歴史漫画の面白さは、ここにあるのかもしれません。
教科書で出来事を一行で覚えるだけではなく、その時代に生きていた人たちの立場や感情を想像するきっかけを作ってくれる。
『長屋王残照記』も、そんな作品だと思いました。
まとめ|華やかな王朝の裏側にあった悲劇
『長屋王残照記』文庫版1~3巻を読んで、私が一番強く感じたのは、
「古代の王朝社会は、私が想像していた以上に厳しい世界だったのかもしれない」
ということでした。
皇族という高貴な身分。
持統天皇につながる血筋。
父・高市皇子の存在。
そして、本人は権力を望んでいない長屋王。
それでも、皇位継承や政治的な思惑の中では、その血筋そのものが大きな意味を持ってしまいます。
1~3巻では、まだ長屋王の悲劇そのものだけではなく、そこへ向かって人間関係や政治情勢が少しずつ変化していく過程が描かれています。
特に3巻では、タイトルにもある「残照」という言葉を意識してしまうような、なんともいえない不穏さがありました。
長屋王がこれからどうなってしまうのか。
そして、なぜ歴史に残る「長屋王の変」が起きたのか。
続きが気になる作品です。
歴史漫画として読むのはもちろんですが、私のように古代史をあまり詳しく知らない人でも、
「この事件、本当の歴史ではどうだったんだろう?」
と興味を持つきっかけになる作品だと思います。
※本記事では、漫画作品として描かれた人物像・心理描写と、実際の歴史上の出来事を分けて感想を書いています。作品内の描写がそのまま史実を意味するものではありません。
📖 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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