第11話 Canvaという新しい世界
最初は、ただ気になっただけだった。
交流会で聞いた“Canva”という言葉。
それが頭から離れなかった。
通勤中も、仕事中も、ふと思い出す。
会社で資料を作っている時ですら、
――これ、Canvaだったらどう作るんだろう。
そんなことを考えるようになっていた。
休日の夜。
貴子は思い切ってCanvaを開いてみた。
無料登録。
テンプレート。
デザイン一覧。
画面いっぱいに並ぶ色鮮やかなデザインを見て、貴子は少し戸惑う。
思っていたより“デザイン”だった。
もっと事務的なものを想像していた。
自分にできるのだろうか。
不安になる。
けれど同時に、少しだけワクワクしていた。
試しにテンプレートを触ってみる。
文字を変える。
色を変える。
写真を入れ替える。
それだけなのに、画面の雰囲気がどんどん変わる。
「すごい……」
思わず声が漏れた。
まるで学生時代の図工みたいだった。
正解があるわけじゃない。
自分で組み合わせて作っていく。
その感覚が新鮮だった。
気づけば、数時間経っていた。
会社の資料作成とは違う疲れ方だった。
嫌な疲れではない。
夢中になったあとの疲れ。
それが久しぶりだった。
翌日。
貴子はコミュニティ内で、Canvaについて質問してみた。
すると、昨日の女性がすぐ返信をくれた。
「最初はテンプレート真似するだけで大丈夫ですよ!」
「資料作成経験あるなら向いてると思います」
その言葉に、貴子は少し驚く。
向いている。
そんなふうに言われたのは久しぶりだった。
会社では、もう“ベテラン事務員”という扱いだ。
ミスなく仕事して当たり前。
新しい挑戦より、安定を求められる。
けれどここでは違った。
年齢ではなく、“できそうなこと”を見てくれる。
それが少し嬉しかった。
その日から、貴子は少しずつCanvaを触るようになった。
最初は趣味みたいな感覚だった。
カフェ紹介画像。
簡単なチラシ。
ホテルレビュー風のデザイン。
作っては消し、また作る。
不思議と飽きなかった。
むしろ、仕事のストレスを忘れられた。
ある日、コミュニティ内で“初心者向け資料作成案件”の募集が流れてきた。
報酬は高くない。
けれど貴子は、画面を見つめたまま動けなくなる。
――やってみたい。
その気持ちが、以前より自然に出てきた。
怖さは、まだある。
失敗するかもしれない。
でも。
以前の“何も分からない怖さ”とは違っていた。
今は少しだけ、“知っている世界”になっている。
それが大きかった。
貴子は深呼吸し、応募ボタンを押した。
会社員としてではなく。
“自分の力”で。
その感覚が、少し誇らしかった。
第12話へ続く。。。
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「何かを始めるのに、遅すぎることはない。」
そんな想いを込めて書いた物語です。
もし少しでも気になりましたら、ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。
これからも短編・長編を問わず、さまざまな作品をお届けしてまいります。今後とも応援よろしくお願いいたします。

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