第10話 はじめての居場所
コミュニティへ参加した日の夜、
貴子は少し緊張しながらパソコンを開いた。
申し込みを済ませたあと送られてきたURLをクリックすると、チャット画面が表示される。
そこには、思っていた以上にたくさんの人がいた。
「はじめまして!」
「よろしくお願いします!」
「今日は案件応募しました!」
次々と流れていくメッセージ。
貴子はその勢いに圧倒された。
会社のグループチャットとは違う。
もっと自由で、雑談も多く、空気が柔らかい。
最初は、ただ見ているだけだった。
何を書けばいいのか分からない。
年齢のことも少し気になった。
周囲は若い人ばかりかもしれない。
そんな不安もあった。
けれど、自己紹介欄を見ていくうちに、少し驚く。
「40代主婦です」
「子育てしながら勉強中」
「50代から副業始めました」
思っていたより、年齢層が幅広かった。
会社員もいれば、主婦もいる。
地方在住の人。
子育て中の人。
介護しながら働いている人。
みんな事情が違う。
それなのに、どこか同じ空気が流れていた。
“今の働き方に不安がある”
その感覚が、共通している気がした。
貴子はしばらく迷ったあと、小さく自己紹介を書き込む。
「はじめまして。50代会社員です。副業初心者ですがよろしくお願いします」
送信ボタンを押した瞬間、胸が少しざわつく。
けれど数秒後、
「よろしくお願いします!」
「50代仲間嬉しいです!」
「一緒に頑張りましょう!」
返信が次々届いた。
その瞬間、貴子は少しだけ驚いた。
否定されない。
年齢を笑われない。
それだけで、思った以上に安心した。
会社では、“50代女性”というだけで空気が決まることがある。
新しいことに挑戦するより、現状維持を求められる年代。
けれどここでは違った。
年齢よりも、“何を始めたいか”で話している人が多かった。
その空気が新鮮だった。
数日後、コミュニティ内で初心者向けのオンライン交流会が開かれた。
貴子は参加ボタンを押すだけで緊張した。
画面越しとはいえ、知らない人と話すのは久しぶりだった。
だが実際に参加してみると、思っていたよりずっと普通だった。
「案件って返信来なくないですか?」
「分かります!」
「私も最初、怪しい案件引きました」
そんな会話が自然に飛び交う。
貴子は思わず笑ってしまった。
自分だけじゃなかったのだ。
返信が来ないのも。
騙されそうになったのも。
何が正しいか分からず不安になるのも。
初心者なら、みんな通る道だった。
その事実だけで、心が少し軽くなる。
交流会の後半、ある女性が画面共有を始めた。
「最近はCanvaで資料作成してます」
貴子はその言葉に首を傾げた。
Canva。
聞いたことのない名前だった。
画面には、おしゃれな資料や画像が映し出される。
シンプルなのに見やすい。
会社のパワーポイント資料とは少し違う。
「Canvaって初心者でも使いやすいんですよ」
女性は楽しそうに話していた。
在宅で資料作成案件を受けているらしい。
「えっ、それってデザインの仕事ですか?」
誰かが質問すると、女性は笑った。
「私も最初は事務職でしたよ。だから最初は全然できませんでした」
その言葉に、貴子の手が止まる。
事務職。
自分と同じだった。
「でも、資料作るの好きだったので、やってたら楽しくなっちゃって」
女性は自然体だった。
“キラキラ成功者”という感じではない。
だからこそ、現実味があった。
交流会が終わったあとも、貴子の頭には“Canva”という言葉が残っていた。
知らない世界だった。
けれど、不思議と少し気になった。
会社では長年、資料作成をしてきた。
会議資料。
説明資料。
マニュアル。
地味な作業だったが、嫌いではなかった。
むしろ、“見やすく整える”ことは好きだった気がする。
――私にも、できるんだろうか。
そんな考えが、静かに芽生え始めていた。
その夜、貴子は眠る前に検索する。
「Canva 初心者」
検索結果には、たくさんの解説動画が並んでいた。
副業の世界は怖いだけじゃない。
知らない世界が広がっている。
そんな感覚が、少しずつ貴子の中で変わり始めていた。
第11話へ続く。。。
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「何かを始めるのに、遅すぎることはない。」
そんな想いを込めて書いた物語です。
もし少しでも気になりましたら、ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。
これからも短編・長編を問わず、さまざまな作品をお届けしてまいります。今後とも応援よろしくお願いいたします。

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