第12話 未来は案外、明るいのかもしれない
その頃の私は、もうあの頃ほど不安に振り回されてはいなかった。
静かなホテルの部屋で、窓の外を見ながら、貴子はふとそんなことを思う。
夜の街には、相変わらずたくさんの明かりが灯っている。
以前と同じ景色。
けれど、見え方は少し変わっていた。
ほんの少し前までは、未来のことを考えるだけで怖かった。
物価高。
老後。
年金。
体力の衰え。
通勤電車に揺られるだけで疲れ果て、
「あと何年働けるんだろう」
そんなことばかり考えていた。
50代になってから、急に未来が現実として迫ってきた。
若い頃は、“老後”なんて遠い話だった。
けれど気づけば、自分がその入口に立っていた。
身体も昔とは違う。
疲れは抜けにくい。
無理も効かない。
それなのに、物価ばかり上がっていく。
将来への不安は、気づかないうちに貴子の心を少しずつ追い詰めていた。
だから、副業動画を見た時、あんなにも心が動いたのだと思う。
最初は怖かった。
何も分からなかった。
返信が来ないだけで落ち込んだ。
怪しい案件にも引っかかった。
知らない世界へ入る怖さを、何度も感じた。
それでも。
少しずつ世界が広がっていった。
コミュニティ。
新しい出会い。
Canva。
在宅ワーク。
知らなかった働き方。
知らなかった人たち。
そして何より、“会社以外の世界”を知った。
それが大きかった。
今の貴子は、まだ会社員だ。
毎朝満員電車に乗り、会社へ向かう。
急に人生が変わったわけではない。
収入だって、まだ大きく変わったわけじゃない。
不安も、完全になくなったわけではない。
老後の問題も。
身体の衰えも。
現実として、そこにある。
でも。
以前とは決定的に違うことがあった。
“何もできない”わけじゃない。
そう思えるようになったのだ。
未来が怖かったのは、何も知らなかったから。
会社だけが世界だと思っていたから。
もし働けなくなったら終わりだと思っていたから。
でも今は違う。
少しずつでも、自分で選べる。
学ぶこともできる。
働き方を増やすこともできる。
その事実を知った。
窓の外を眺めながら、貴子は小さく笑う。
未来は、まだ不安だ。
でも。
案外、悪くないのかもしれない。
そう思えた。
テーブルの上には、ノートパソコンが置かれている。
以前なら、ホテルでは何もせずただ現実逃避するだけだった。
けれど今は違う。
ホテルは、“逃げ場所”ではなく、“未来を考える場所”に変わっていた。
スマートフォンには、コミュニティの通知が届く。
「資料完成しました!」
「初案件取れました!」
そんなメッセージを見ながら、貴子はふと思う。
人生は、思っていたより遅くないのかもしれない。
50代からでも、始められることはある。
静かな部屋の中で、貴子はゆっくりとパソコンを開いた。
もう、“未来が怖いだけの自分”ではなかった。
エピローグ(最終回)へ続く。。。
📢 作者からのお知らせ
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
現在、私の作品「50代、もう無理だと思っていた私が副業を始めた話」 を電子書籍としてSUZURIで販売しています。
50代で人生の転機を迎えた主人公が、小さな一歩を積み重ねながら「自分らしい働き方」と「新しい人生」を見つけていく物語です。
Web版をもとに再編集し、さらに電子書籍限定で**書き下ろし特別編「1年後の私」**を収録しました。
主人公がその後どんな未来を歩んだのか――。
Webでは読めない「物語の続き」をお楽しみいただけます。
また、この作品が生まれたきっかけや執筆への思いを綴ったあとがきも収録しています。
この作品を読んだことがある方はもちろん、初めての方にも楽しんでいただける一冊です。
📚 電子書籍はこちら
https://suzuri.jp/2025_33_nakamura/digital_products/142476
「何かを始めるのに、遅すぎることはない。」
そんな想いを込めて書いた物語です。
もし少しでも気になりましたら、ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。
これからも短編・長編を問わず、さまざまな作品をお届けしてまいります。今後とも応援よろしくお願いいたします。

コメント