「50代、もう無理だと思っていた私が副業を始めた話」ー第5話

50代、もう無理だと思っていた私が副業を始めた話

第5話 知らなかった働き方

副業。

その言葉を意識するようになってから、貴子の毎日は少し変わった。

通勤中も、昼休みも、帰宅後も。
気づけばスマートフォンで副業について調べていた。

まるで、新しい世界を覗き込むような感覚だった。

これまで、自分には無関係だと思っていた世界。
会社員として働くことしか知らなかった貴子にとって、それは想像以上に広かった。

在宅でできる仕事。
スマートフォンだけでできるもの。
パソコンを使うもの。
文章を書く仕事。
データ入力。
電話対応。
事務代行。
動画編集。
デザイン。

――こんなにあるの。

思わず、そう呟いていた。

副業といえば、アルバイトのようなものを想像していた。
休日にどこかで働くとか、夜に短時間だけ店に出るとか。

そんな古いイメージしかなかった。

けれど、今は違う。

自宅で。
パソコン一台で。
会社に行かなくても。

そんな働き方が、本当に存在していた。

知らなかっただけなのだ。

その事実に、軽い衝撃を受けた。

同時に思う。

――もっと早く知っていたら。

もし若い頃に知っていたら、人生は違ったのだろうか。

そんなことを考えても意味はない。
分かっている。

それでも少しだけ、そう思ってしまった。

貴子はさらに調べた。

副業を始めた人たちの体験談。
失敗談。
成功談。
おすすめの始め方。

見れば見るほど、情報は出てくる。

その中には怪しいものもあった。

「誰でも月収50万円」
「スマホだけで簡単」
「今すぐ人生逆転」

そんな言葉が並ぶたび、貴子は眉をひそめた。

――さすがに、それは怪しい。

簡単に稼げるなら、誰も苦労しない。

そのくらいの分別はある。

だからこそ、逆に安心した。

怪しいものを除けば、
ちゃんと現実的に働いている人たちもいる。

派手ではなくても、
少しずつ収入を増やしている人がいる。

その事実が、妙に現実味を持って迫ってきた。

ただ。

調べれば調べるほど、次に浮かぶのは同じ疑問だった。

――自分にできるのだろうか。

貴子には特別なスキルがない。

パソコンは使える。
事務職として働いてきたのだから、最低限の操作には慣れている。

WordもExcelも使える。
メール対応も、資料作成も、電話応対もできる。

でも、それは“会社の中”で通用していただけではないか。

外に出て、それがお金になるのか。

まったく自信がなかった。

年齢のこともある。

副業の世界は、若い人ばかりなのではないか。
今さら五十代から始めて、通用するのだろうか。

そんな不安ばかりが浮かぶ。

画面を見つめながら、何度も検索しては閉じる。

「副業 50代 未経験」
「副業 事務経験 活かせる」
「在宅ワーク 初心者」

検索履歴は、同じような言葉で埋まっていった。

――やってみたい。

その気持ちは確かにある。

でも。

――失敗したらどうしよう。

その不安も、同じくらい大きかった。

自分にできなかったら。
時間だけ無駄にしたら。
恥をかいたら。

考えれば考えるほど、怖くなる。

それでも。

不思議なことに、調べるのをやめる気にはなれなかった。

怖いのに。
不安なのに。

それでも知りたいと思ってしまう。

その時点で、もう答えは出ていたのかもしれない。

貴子はある夜、スマートフォンを置いて小さく息を吐いた。

やるかどうかは、まだ分からない。

でも。

知らないままで終わるのは、もっと嫌だった。

“できない”のと、“やらない”のは違う。

そんな言葉を、どこかで見た気がする。

その時は大げさだと思った。

けれど今なら、少しだけ分かる気がした。

やる前から諦めるのは、
ただ怖くて逃げているだけなのかもしれない。

貴子はスマートフォンを手に取り、あるサイトを開いた。

副業初心者向けと紹介されていた仕事募集サイトだった。

登録は無料。
メールアドレスだけで始められるらしい。

画面を見つめる。

指が止まる。

ほんの少し、心臓が速くなる。

たったこれだけのことなのに。

まるで、大きな決断を迫られているようだった。

――登録だけ。

まだ仕事をするわけじゃない。
見るだけ。

そう、自分に言い聞かせる。

そして。

貴子は、ゆっくりと指を動かした。

第6話へ続く。。。


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